新型コロナウイルスとは? 「ウイルスを知ることは予防につながる!」

                             

 第19回市民教養講座 (2020/12/13) から      

    電子顕微鏡でミクロを観る会代表    惣田 昱夫                                     


 新型コロナウイルス感染を予防するための話をします。
 まずウイルスのことを理解することが、新型コロナウイルスの感染対策をするうえで重要です。
インフルエンザウイルスやエイズウイルス等735属4400種類以上のウイルスの種類が知られており、人間だけでなく動物、植物、細菌にも感染するウイルスが知られています。人間の病気を引き起こすウイルスもたくさん見つかっています。新型コロナウイルスは、これまで知られていたウイルスでなく、過去に病気を引き起こし、感染拡大を引き起こしたコロナウイルスのSARSウイルスのゲノムが似ていることが明らかになってきました。WHOでは新型コロナウイルスをSARS-CoV-2と命名、病気をCOVID-19としました。


1.ウイルスの特徴

 ウイルスは大変小さくて目に見えない大きさです。10万倍拡大できる電子顕微鏡で見ることが出来ます。またウイルスは細胞でないため単独では生きていけない生物で、ほかの生物の細胞に入らなければ増殖することができない生き物といえない生き物です。学問的には偏性細胞内寄生体と呼ばれています。感染予防では、ウイルスのこの特徴を理解することが大事です。  

 図1 新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 (Wikipedia)


 ウイルスのゲノムタイプにはDNA型とRNA型の2種類があり、主にはカプシドと呼ばれる袋の中に入っておりさらにエンベロープという糖タンパクの膜で包まれています。この膜に細胞に入っていく穴ともいうべき受容体と結合する突起状のスパイクタンパク質があります。新型コロナウイルスは電子顕微鏡で見ると王冠の形をしている(図1)ことからコロナウイルスと呼ばれていますが、人間に感染するコロナウイルスは今回の新型コロナウイルスを含めて7種類知られています。新型コロナウイルスはRNA型でウイルスとしては変異を起こしやすいタイプのウイルスです。ウイルスは生き物でないため殺す(殺菌)ことができません。ただ人に感染する力を弱めることは出来ます。これを不活性化といいます。消毒用アルコール等で力を弱めることは出来ますが、殺菌ができませんので厄介な寄生体といえます。


2.新型コロナウイルスによる病気の特徴

 感染して発病するまでの期間は人により違いますが多くの人は5-6日間くらいです。中には2週間程度してから発病する人もいるようです。発病しない人は、風邪みたいだな、なんとなくだるいなー、少し熱っぽいなーで治りますが、発病すると息苦しさ、強いだるさ、37℃以上の熱が出ます。特に味がしない、匂いがしないなど新型コロナウイルスによる特有な味覚障害が出るようです。発病前に他の人に感染させてしまう、まったく症状のない感染者(無症状感染者)が他の人にうつすという、今までにない特徴を持ったウイルスです。そのため、感染した人が無意識のうちに他の人にうつす危険性を持ったウイルスといわれています。さらにこのウイルスはACE2という受容体に結合して細胞に入り、増殖することになります。このACE2の受容体が成人には上気道だけでなく肺にも多いため、ハンデイを持った人は免疫の働きが弱いこともありウイルスが肺に入り、一気に肺炎を起こし重症化させてしまいます。病気を持った人たちが重症化してしまうのはこのためです。また変異したイギリス型ウイルス等は感染力が武漢型ウイルスより2倍ほど強いといわれていますので、変異型の感染防止対策は今後の感染拡大を防ぐうえで大事になってきています。
 後遺症対策も大事です。治って退院しても、倦怠感や咳が残る、頭痛、味覚障害が残る、そして脱毛が続く、心臓障害が残るなどが報告されています。何としつこく嫌な病気です。

 
3.人間が新型コロナウイルスに感染した場合の感染防御機構は免疫

          図2 3つの防御壁


 ヒトの体は3重に守られ(図2)ています。1つ目は皮膚や粘膜によるものです。2つ目は自然免疫です。3つ目は獲得免疫です。口から入ったウイルスは粘膜等にある粘液によりからめ取られ痰として外に出されます。ここをすり抜けたウイルスに最初に反応するのが好中球、マクロファージ、NK細胞等の自然免疫チームです。これらの細胞は異物-病原体に攻撃し分解し貪食して人の健康を維持しています。これでもダメな場合は獲得免疫チームの出番となります。このチームの主役はリンパ球のB細胞とT細胞です。マクロファージから伝達されたヘルパーT細胞は、感染した細胞や病原体そのものを攻撃するキラーT細胞と抗体を生産するB細胞を活性化し抗体を作ります。病原体と反応(中和)し、活動を抑えます。この時このチームは病原体を記憶し、再度侵入した場合はすぐに対応できるように記憶します。ワクチンはこの抗体を利用した薬剤です。  
 感染した場合、普通は鼻水やくしゃみなどが出ます。この時初めに出てきて働くのが自然免疫です。感染してもまったく症状が出ない人がいます。まったく症状が出ないのはこの自然免疫力が強いからです。この自然免疫力を強くすることは病気から体を守るうえで大切なことです。どうしたら免疫力を強くするかですが、不規則な生活は免疫力を下げます。免疫の70%近くは腸で作られます。腸内環境をよくしておくことも免疫力を強くすることになります。ここで対応ができなかった場合、発病ということになります。悪寒が出ることもあります。この悪寒は大切な人間の防御反応のひとつです。人間を守る免疫の各機能を奮い立たせるためのもです。そうすると「いざ鎌倉」だと免疫機構が病原菌と闘う体制に入ります。その結果発熱し体がだくなったりします。熱が出ることで免疫機構-白血球が活性化し機能を高めます。細菌もそうですがウイルスも熱に弱いため、弱められた病原菌を取り囲み抑えることになります。発熱が37℃を超え38,39℃となることもあります。体がだるく起きているのもつらいということになります。この時働いているのが獲得免疫といわれる免疫グロブリンで、初めに対応範囲が広いIgMがでて次に特異的な反応するとIgGが産生されます。同じ病原菌が入った場合IgGが大量に生産され撃退されることになります。

    夜になると熱が出ることがよくあります。これは獲得免疫が夜よく働くからです。風邪などにかかると夜に発熱し、朝になると下がることがよくありますが、これは夜になり獲得免疫が活発に働くことにより熱が出てくるからです。発熱は自分の免疫が果敢にウイルスと闘っている証拠でもあります。免疫機構がよく働くのは休養時や夜間に副交感神経が優位となる時です。この免疫細胞が活発に働けるように休養したり睡眠を取ったりすることが大事です。ウイルスを殺す薬は、前にお話ししました通りウイルスは生き物ではありませんから、ありません。免疫細胞をよく働かせることが早く良くなる秘訣です。新型ウイルスの場合、感染者を隔離して休息させる施設が必要となります。肺炎等症状がみられる場合は、早めに病院等での治療が必要です。さらに重症化した場合は症状に合わせて抗炎症薬や人工呼吸器などの対処療法が必要となります。
 もし感染したと思ったら、1)回復するため休養する、2)激しい運動は控える、多く睡眠をとる、3)加湿器を使い加湿する、4)病気の時は脱水症状になりやすい、水分補給をすることが大事です。

4、感染させないことが大事

  図3 マスクの効果 理研「富岳」のシミュレーションから


 新型コロナ予防は感染させないことです。感染経路は大まかに3つあります。1)飛沫感染、咳やくしゃみで2-3m飛ぶようです。飛沫を付着させたり吸い込んだりすると感染します。今回は飛沫感染が圧倒的に多いようです。大声で話したり歌ったりすると周りの人に感染させます。2)接触感染、付着したウイルスを手で触ったりし、その手で目を触ったり、口に入れたりすると感染します。3)空気感染、感染者が吐く息がエアロゾルとなり空気中に漂いそれを吸い込んで感染する、ようです。
 1)の対策はマスクをする、1m以上の間隔をあける(ソーシャルディスタンス)ことです。2)よく手洗いをすること、むやみに触らないことです。3)は室内の換気をよくすることです。
 2)の場合の手洗いは効果がありますが、あまり洗いすぎないよう注意してください。皮膚が傷めつけられたりすると痛めたところから感染することがありますので注意ください。
 感染予防にはマスクは絶対必要です。またその効果も抜群です。いろんな意見もありますが、当面は感染対策としてマスクの着用は重要と思われます。
 消毒剤もウイルスの不活性化に効果があります。消毒用アルコール、0.05%次亜塩素酸ナトリウム、手洗い石鹸、カチオン界面活性剤などですが、使用する場合は使用上の注意を守ってお使いください。

5.どんなワクチンが開発されているか
 ワクチンには
1.生ワクチン 病原体は生きているが、病原性を弱めたもの軽い症状が出ることがある-BCG,風疹ワクチン
2.不活化ワクチン 病原性をなくした細菌、ウイルスをつかったもの免疫が付きにくい-インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎
3.サブユニットワクチン 病原体の一部を酵母などで作成、接種-B型肝炎ウイルス
4.遺伝子ワクチン(新しい方法)DNAやmRNAの断片をワクチンとして直接投与する方法-インフルエンザウイルス、HIV、がん、アルツハイマー等
日本で接種が始まっているワクチンは、米ファイザー社製で「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と呼ばれます。新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質(スパイクタンパク質)の遺伝情報「mRNA」を人工的に合成して投与します。ヒトの細胞内でmRNAからウイルスのタンパク質を合成。そのタンパク質に対する抗体が生産されることで免疫を獲得する方法です。新型コロナウイルスの遺伝情報を利用したものには、英アストラゼネカ社が手掛ける「ウイルスベクターワクチン」があります。

図4 新型コロナウイルス用ワクチン(www.cross-m.co.jp/report/より)


 ワクチン接種後の問題は抗体依存性感染増強(ADE)ですが、この事例報告はありませんので少し安心しますが、頭痛や体がだるい等の副作用は出ていますが、すぐに対処され症状は回復しているようです。今回は短期間で作られたワクチンですので接種後に何かがおこることも考えられます。注意して見守ることは大事です。ある病原体に対して人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染患者が出ても他の人に感染しにくくなることで流行がしにくくなり、間接的に免疫を持たない人も感染から守られます。この状態を「集団免疫」といい、社会全体が感染症から守られることになります。ワクチン接種を終え集団免疫に至るまでは、現状においては年単位かかるような気がします。ワクチン接種に際し、日本ではワクチンの不祥事等もありアレルギーがあります。正確な情報を丁寧に説明し、徹底させることが大事だと考えています。
 ワクチン以外には先に話題となったレムデシビルやアビガンなどのウイルスの治療薬も開発されて治験が始まっています。


6.感染拡大をもたらしたのは-環境破壊

 新型コロナウイルスが発生し拡大した背景は世界の環境破壊が関係しているといわれます。
 1)生態系が変化しています。農地開発による森林伐採、ダム建設や灌漑整備の開発があらゆる国で行われています。森林減少による人間と野生動物との接触機会が増加しています。これまでの感染症の 2/3 が動物由来といわれています。アマゾンでの森林減少、ゴビ砂漠等、世界規模で砂漠化が進行している。 (2)人口が都市部に集中するなど人間社会が大きく変化し、人やモノが地球規模で高速移動、特に新自由主義経済が感染症拡大の下地となっている。(3)不衛生な環境・不十分な医療知識が、感染症の拡大助長している。

   この背景となっている地球温暖化、このままでいくと感染症どころか地球破滅へと向かう可能性が指摘されています。ある時点の人間の社会・経済活動を維持するには地球は何個必要か(エコロジカル・フットプリント)を調べたところ2017年には1.73個必要というデータが出ています。
 

7.感染者及び感染者を拡大させないために

図5 PCR自動分析器(日本製)宣伝用パンフから


 1)PCR検査体制を整備することです。感染防止の観点から、民間施設も活用し検査体制を強化することが求められっています。 ① 検査は必要な者に、より迅速・スムーズに検査を実施 ② 濃厚接触者だけでなく広く接触者はPCR検査をする。 ③ 患者・入所者や医療従事者等を守るため、院内・施設内のPCR検査をおこなうこと
 各地域に必要な検査体制の強化に向け、相談・検体採取・検査の一連のプロセスを、国と地方自治体で協働して対策を実施。PCR自動分析機(図5)を導入して広範囲に短時間で検査し感染者を把握することが求められています。
 これまでのPCR検査実績は、東京都 1,423,473件(人口比10.2%)、大阪 719,888件(人口比8.2%)、神奈川  542,742件(5.9%)、埼玉 503,852件(6.9%)、愛知 353,866件(4.7%)、千葉 371,396件(5.9%)です。
このようにPCR検査は全国的に少なく、中でも神奈川県は5.9%と低い状況です。変異型ウイルスのPCR検査はさらに低い水準にあります。変異型ウイルスのPCR検査を大幅に増やす必要があります。自動分析器はこの場面でも役立ちます。
 2)地方自治体の感染防止対策システムの強化
 地域住民の健康と安全を守る砦の保健所を、地域保健法で改正された保健所や地方衛生研究所の感染症に関する研究機能の縮小合理化(特に神奈川県の微生物部24人(2003年度)から14名(2020年度)と半数近く減員)を改め、保健所機能の回復(所長は医師でなくてもよい等)を国に働きかけ、縮小された保健所機能強化を図ることが今感染症対策で求められていると感じています。

いろいろ話しましたが、一番大事なことはやはり感染しないことです。ワクチンが接種されたとしても100%感染しないわけではありません。変異型も広がっています。マスク、手洗いはしっかり行ってください。以上です。


経歴
惣田昱夫 農学博士(岐阜大学)

1945年生まれ
1969年 静岡大学農学部卒
1970年から2003年まで神奈川県に勤務
(内1984年から1991年まで神奈川県衛生研究所勤務)
2004年4月から2011年3月静岡理工科大学理工学部物質生命科学科教授
2011年3月定年退職
2016年から現在まで電子顕微鏡でミクロを観る会代表

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