宇佐美りんの「推し、燃ゆ」すごかった。 今を描いてるのに古典的青春小説の暗さや懐かしさも

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」で始まる

宇佐美りんの「推し、燃ゆ」(河出書房新社)、すごかった。
主人公は高校生で「真幸くん」の熱烈なファン。

SNSが炎上し、生活のすべてを「真幸くん」のためにささげている主人公の動揺が始まる。生きていく意味を見失い、命を失うほどの哀しみと、混迷の中に迷い込んでいく。


彼女を囲む家族の姿から、今の家や家庭の危うさまで描き出している。
青春小説とも読めるのに、これほどの絶望と命の重み考えさせる小説はあまりないのでは、と思えます。

読んでいって最初に、これは参ったなあ、と感じさせられた凄い表現はここ。

そのまま抜粋します。

「ため息は埃のように居間に降りつもり、すすり泣きは床板の隙間や箪笥の木目に染み入った。家というものは、乱暴に引かれた椅子や扉の音が堆積し、歯軋りや小言が漏れ落ち続けることで、埃が溜まり黴が生えて、少しずつ古びていくものなのかもしれない。」


そして、ここも。

「夜の海の匂いがただよっていた。あの苔むした石の塀の向こうには海がある。油のような質感の海がものものしく鳴るのを想像する。意識の底から揺るがすような不穏な何かが、襲ってくるのを感じる。」
       

描かれていることは新しいのに、ドストエフスキーやサリンジャーの青春の書を手にしたような感触や懐かしさを感じさせる素敵な小説です。

                  (根本幸江:日々の思いから)      

       

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